スーツ・ジャケットにおいて季節ごとに変わる素材の違い【春夏編】
スーツ・ジャケットにおいて季節ごとに変わる素材の違い【春夏編】
スーツの使用期間や色柄、サイズ感というものは、購入する時の大きな判断材料となります。
見た目の印象というものは非常に重要です。
しかし、日本には四季というものがあります。
素材を考えると、AさんBさんCさん、それぞれ、もっと深いこんな選び方もあるのではないでしょうか?
しかし、季節ごとに最適な素材を少しでも知って選ぶことにより、より快適で、季節感のあるスーツやジャケット&パンツのスタイルを楽しむことができるのです。
実際にその素材で仕立てたスーツやジャケットを参考写真として見ながら、どのような風合いが出るのか、色味は、仕立て上がりは、そのようなところにも注目して頂ければと思います。
季節ごとに変わる素材の違い「春夏編」目次
1.滑らかで美しい光沢を持つ「モヘア」
ヤギの毛から作られるモヘア
モヘアは、「アンゴラヤギ」という種類のヤギから取れる毛です。
滑らかで美しく、ヤギの毛特有の光沢感があります。
スーツで一般的に使用されるウール(羊の毛)よりも、クリンプと呼ばれる毛の縮れ(ちじれ)が弱いため、衣服内に保たれる空気が少なく、体温や汗などの湿気がすぐに放出されます。
そのため、通気性に優れ、暑い時期に快適なため、夏の生地して知られています。
生後6ヶ月の高級素材 キッド・モヘア
アンゴラヤギは、2歳を過ぎると毛が太くなります。
生後6ヶ月のアンゴラヤギの毛は「キッド・モヘア」と呼ばれ、より滑らかで、さらに高級とされています。
スーツに使用されるモヘアの割合
モヘアをスーツ生地に使用するときは、通常、ウール(羊の毛)を混ぜて使われます。
モヘア50% ウール50%の生地で仕立てたスーツ
キッドモヘア16% ウール84%の生地で仕立てたスーツ
モヘア25% ウール75%の生地で仕立てたスーツ
このように配合の割合を変えて織られることで、求める光沢感や機能性に合った生地を使用することができます。
モヘアの割合が多いほど、通気性に優れモヘアならではの光沢が強く出ますが、ウールの割合が多い方が、耐久性では優れます。
モヘアを取り扱うのが上手なブランドも存在し、イギリスの名門で、「ハリソンズ」「ウイリアムハルステッド」などが挙げられます。
季節感あふれるカジュアル素材「リネン(麻)」
リネン素材というものは、シャツやTシャツなどで見られるので、意外と身近な素材です。
最も古い衣料用繊維
リネンは古くから高級素材として親しまれていて、肌着としても使用されてきました。
ちなみにリネンはもっとも古い衣料用繊維でもあり、スイスの湖底から出土した新石器時代に作られた麻織物が見つかっています。
主に夏のカジュアルスタイルの場面で、リネンが多く使われています。
衣料用として使用される麻は主に2つ
麻というものはたくさんの種類があり、衣料用には「亜麻(アマ)」や「苧麻(からむし)及びラミー」を使用します。
原料である亜麻自体の品質は、ベルギー産が最も良いとされていますが、亜麻を使用して織られ製品にされるリネンの生地はアイルランド産が最も最高級とされ、アイリッシュリネンと呼ばれています。
麻の機能性
麻の機能としては、硬くしっかりとした手触りと、毛ばたちの少なさからくる光沢、そして肌ざわりの良さがあります。
引っ張られる強度が強いということもありますが、同時にストレッチ性がないので、フィッティングはウールや綿を使用する時に比べ、ゆとりを若干多くとるよう調節します。
リネン100%の生地で仕立てたジャケット
リネンのシワの悩みは無用?
リネンを使用する際に、天然素材特有の「シワの出来やすさ」を気にされる方は、意外と多いのではないでしょうか?
確かに、スーツなどで使用されるウール100%の生地に比べると、シワは出来やすいのですが、リネンのシワというものは細かく、綺麗で、よりカジュアルな装いを演出するために必須なものです。
かっちりとしたいときはウールの生地を、季節感のあるカジュアルファッションを楽しむときはリネンの生地を使用すればいいのではないでしょうか?
それでも、、、という方は、リネンの糸にポリエステルを混ぜ、シワになりにくさを体感できる生地もイギリスハリソンズの「シーシェル」というコレクションから展開されています。
高い吸湿性とファッション性「コットン(綿)」
コットン(綿)も普段の衣服で多く使用されているため、身近に感じる人が多いはずです。
スーツの業界では、主にシャツでよく使用される素材ですが、カジュアルなスタイルでもシャツ、さらにデニムやチノパンの素材もコットンが使われることが多いです。
コットンの材料「綿花」
綿植物の身が熟して中から出てくる白い種子毛、これを「綿花」と言います。コットンはこの綿花を摘み取り、機械で繊維と種子を分離して作られます。
産地によって変わるコットンの名称と品質
綿繊維は、産地により種類が示され、品質の違いが大きいです。中でもシーアイランドコットンは最高級品種です。
一般的には使用目的にそって種類を選び、混ぜながら製品が作られます。
- シーアイランドコットン(海島綿):最高級品種で、繊維が細くて長くよじれ数が大きいため、白度と光沢に富む。アメリカのフロリダからメキシコ湾岸、西インド諸島にて採取される。
- エジプト綿:シーアイランドコットンに次ぐ良品種で、細く、強く、柔らかい。エジプトのナイル川付近にて採取される。
- 米綿:シーアイランドコットン以外のアメリカ産コットンの総称。エジプト綿よりやや劣る品質だが、最も大量に作れる。
- インド綿:インドで作られ、繊維が太くて短い。他の綿と混ぜて、太めの糸を作るときに使用される。
コットンは、吸水性が高く、肌触りが良いので、ジメジメした日本の夏に適した素材とも言えます。
染色性にも優れているので、ファッション性の高い色合いを表現できるのもコットンの特徴です。
コットンの短所は他の繊維や加工によって補われる
ストレッチ性が小さいことや、洗うと縮む、シワになるなどの欠点もある中、衣料用の全繊維の40%はコットンが使われています。
短所は織り方や加工、化学繊維などを混用することによって補われています。
生地表面のでこぼこが特徴のシアサッカー
コットンを使用した「シアサッカー」は、織り方による加工で、生地の表面にでこぼことしたシボを作ります。
そのでこぼこによって、さらに通気性をよくし、肌に触れる面積が少なくなるので肌に張り付かず、すっきり着用できます。
そのため、シアサッカーは、スーツやジャケットを仕立てる代表的な夏の生地です。
コットン100%のシアサッカーのスーツ
ポリウレタンを2%配合し、ストレッチ性をもたせたコットン生地
イタリアのコットン生地最大手ブランドの「ラルスミアーミ」では、2%ほどポリウレタンを混ぜ合わせることで、コットンの風合いや機能性を崩すことなく高いストレッチ性を出しています。
コットン98%ポリウレタン2%のラルスミアーミのスーツ
春夏定番の組み合わせ素材「三者混(ウール・シルク・リネン)」
一つの素材を使用する生地だけでなく、2種類の素材、3種類の素材、4種類の素材といったように、いくつかの素材を混ぜ合わせて織られる生地というものがあります。
春夏のカジュアルシーンでは三つの素材を混ぜ合わせる「三者混」が定番です。
特によく混ぜ合わせる素材が、
- ウール
- シルク
- リネン
この三つの素材を、「見た目・機能性・耐久性」などを考慮した割合で混ぜ合わせ作られます。
夏ならではの素材を混ぜた三者混の生地は、リッチな素材感と夏のビジネスシーン・カジュアルシーンで重要な高い快適性を生みます。
それぞれの良いところと欠点を補う
ウールの放湿性・除菌性などの機能、シルクによる高級感あふれる光沢、リネンならではの風合いや表情を出し、それぞれの良いところを引き立てています。
さらにウールの暖かさはリネンやシルクが入ることでより夏向きに冷涼感が出て、シワになりやすいリネンも他素材が助けてくれます。
繊細なシルクの耐久性もウールやリネンが入ることで補えるということです。
ウール75%・シルク15%・リネン10%の三社混のスーツ
ウール・シルク・リネン以外の三者混
三者混の組み合わせというものは多数あります。
「コットン・リネン・ポリエステル」という三者混素材は、「ウール・シルク・リネン」の三者混素材に比べ、ウールの代わりにコットンを使用しカジュアル感を出し、シルクの代わりにポリエステルを加えることで、耐久性・ストレッチ性を上げています。
ウール・リネン・ポリエステルの三者混のジャケット
素材によって変わる機能や見た目
四季のある日本では、季節ごとに装いが変わります。
そこにはもちろん「夏らしい色」「冬らしい柄」などといったように、見た目での印象の違いも、ファッションを楽しむ上で非常に重要な要素として存在します。
しかし、素材の違いを見極め、選択することで、見た目でも季節ごとに合った印象も変わりますし、それだけでなく、より高い快適性まで求めることができます。
季節ごとに変わる素材の違いを見極め、ファッションというものをぜひ身近に感じて見てください。
スーツ・ジャケパン・タキシード・着こなしについてなど、なんでも。LINE@にて相談を受け付けています。ご予約もこちらから!!